更新情報07:『ロードス島攻防記』 著:塩野七生 [歴史・時代小説]
【紹介者:koo(くー)様】
「イスラムの咽にひっかかった骨」「キリストの蛇たち」と称された聖ヨハネ騎士団と、オスマン帝国の、ロードス島をめぐる5ヶ月にわたる攻防を 描いた物語。
►『ロードス島攻防記』
著:塩野七生 新潮文庫 1991/05 248p ISBN978-4101181042
これから先は、ネタバレ有りの感想です。ご注意ください。
塩野氏フリークの友人にこの前編とも言える『コンスタンティノープルの陥落』を勧められて読んで、一気に陥落。
続いて『ロードス島攻防記』も熟読しました。
塩野氏の小説は、当時の人物達が書き残した実存する資料を元に描かれています。
勿論、著者自身がイタリア語の文献を直接読んで。
この『ロードス島攻防記』でも船が港に入る時の風向きひとつについても詳細に書かれていて、日本人が想像する風や季節風が地中海ではどう異なるのかが実際に感じられるようです。
本編のうちおよそ半分ほどは、資料的な記述が多いのですが、その部分も実に非常に興味深い。
私達が学生の頃に読んだような歴史の資料集と違い、物語として捉えることが出来る分、リアル感が増してきます。
ロードス島には実際に足を運んだのですが(ヲタ用語でいう聖地巡礼ですか?)、城塞や街並みの描写が記述と実物と全く同じで、どれほど感動したことか。
そして、読んで得た感触が、実際のものとあまり変わらないことにも驚きました。
これは塩野氏の描写力・表現力の細やかさの表れだと思います。
どちらかと言うと資料的な著書の代表作として『ローマ人の物語』がありますが、これは私は途中で挫折しました。
どうやらローマは私の好みではないようですので…。
『ローマ人の物語』は読めなかった私ですが、『海の都の物語-ヴェネツィア共和国の一千年-』は読み切りました。
►『海の都の物語-ヴェネツィア共和国の一千年-』(文庫全6巻)
この辺りは私のマルコ・ポーロ好きも関係しているようです(笑)
↑NHKのアニメを見てマルコ・ポーロに惚れた中学生
著者の代表作である『ローマ人の物語』を取り上げずに、ちょっとマイナーな『ロードス島攻防記』を取り上げるのには、上のような事情もあります。(まず私本人が読んでいないと言う。ね)
それに、『ロードス島攻防記』は物語として非常に読みやすい方に入っているとも思うんです。
夕暮れの港に入る船。夜が明けた後の島の美しさ。
そこに住む人々のこと。
聖ヨハネ騎士団達のこと。
それらがきっちりと描かれ、薔薇の花咲く古の島に感情が入ったところでオスマン帝国との戦いが始まる。
約600年前に実際にあった事実が、まるで作者の手によって紡ぎだされた物語のようにも思えてしまうんです。
そして何より。
登場人物達が非常に魅力的であること。
聖ヨハネ騎士団の若き騎士達。
オスマン帝国の若きスルタン。
国を捨て、キリスト教最前線地に赴く壮年の技術者。
聖ヨハネ騎士団を纏める沖田艦長のような騎士団長(を?)
それぞれの国の様々な年代の人々が生き生きと描写されています。
読み手側それぞれの立場で、登場人物の誰かの目を通してこの世界を見ることができると思います。
私が借りた目を持つ人物は、主人公のアントニオ・デル・カレット。
この二十歳の若者を通して、私はロードス島の攻防を体感しました。
この聖ヨハネ騎士団。
現在は「マルタ騎士団」としてローマに本拠地を置く、現在も残る唯一の騎士団なのです。
と、ちょっとお堅く書いてみましたが。
本心を正直に言いますと、主人公のアントニオに古代くんの面影を見出したんです(笑)
なので一気にハマってしまったと。
ちなみに塩野氏フリークの友人はもうひとりの主人公・ジャンバッティスタ・オルシーニに傾倒しておりました。
この友人と行ったロードス島旅行のそれは面白かったこと。
旧市街中をくまなく歩き回り、物語の舞台になった場所があれば、文庫本を取り出してはそのシーンを再現(は、恥ずかしい)。←他に日本人がいなくて本当に良かった…。
オルシーニが最後を迎えたアラゴン城壁では、友人はひとりでしばらく佇んでいましたっけ。
(オルシーニはアントニオより年上なので、ヤマトで言えば真田さんぽいかなあ。でも、技師マルティネンゴの方がよっぽど真田さんなので、オルシーニは島くんに近いかな?うーん、キザな島くんだ)
と、非アニヲタの友人でさえここまで見事にハマってしまった塩野氏の『コンスタンティノープルの陥落』。
男性には戦記物としての読み応えが十二分にあるでしょうし、女性は華麗な騎士達に心奪われることでしょう。
(女性にとってはそれだけではないオチ(爆)もあります。さすが著者が女性なだけあります)
キリスト教世界とイスラム教世界という、何百年にも渡って争ってきた歴史のそのヒトコマ。
そのヒトコマを物語として楽しむというのは、当時の彼らに申し訳無いような想いもありますが、彼らの生きたその軌跡があって今があると思えば、感慨も一入かもしれません。
もし『ロードス島攻防記』に興味を持たれたのならば、前編とも言える『コンスタンティノープルの陥落』も併せてご一読戴けると良いかと思います。
そして、後編とも言える『レパントの海戦』も。
ヤマトや艦隊戦がお好きな方ならば『レパントの海戦』も興味深くお読み戴けると思います。
『銀河英雄伝説』のオーベルシュタイン閣下がお好きな方には『マキアヴェッリ語録』をお勧めいたします。
とても600年前に書かれたとは思えません。現代でも充分通用します。
書き残していることもあるような気がしますが、これより後は、興味をお持ち下さった方々に委ねたいと思います。
是非とも中世地中海世界をご堪能下さいませ。
文責:koo(くー)blog「今日も地球は周ってる」
文中ご紹介のあった本はこちら。
『ローマ人の物語』(単行本全15巻)
著:塩野七生 新潮社 1992/07 ISBN978-4103096108
文庫版はこちら。(全43巻)
ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)
『コンスタンティノーブルの陥落』(文庫)
著:塩野七生 新潮社 改版1991/04 291p ISBN978-4101181035
『海の都の物語-ヴェネツィア共和国の一千年-』(文庫全6巻)
著:塩野七生 新潮社 2009/5/28 235p ISBN978-4101181325
単行本はこちら。
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年
『レパントの海戦』(文庫)
著:塩野七生 新潮社 2003/07 ISBN978-4101181059
単行本はこちら。
レパントの海戦
『マキアヴェッリ語録』
著:塩野七生 新潮社 改版1992/11 273p ISBN978-4103096276 88年刊の再刊
文庫版はこちら。
マキアヴェッリ語録 (新潮文庫)
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