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宇宙図書館 秋の夜長に

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『王家の紋章』&『ベルサイユのばら』

更新情報11:『王家の紋章』&『ベルサイユのばら』[歴史・時代/comic]
 
【紹介者:吉野御前様】

昭和50年代に歴史好きになった人へ
 
物事にはすべて「出会い」と申すものがございます。
現在歴史おたくを自認するワタクシでございますが、これだって「おぎゃあ」と生まれた時からこうだったわけではございません。小学生のみぎり、ふたつの漫画に出会ったことが、ヤマト歴とほぼ同等の30年ちょっとに及ぶ(!)歴史おたく歴のスタートでございました。
で、本日はそのワタクシのエポックな漫画をご紹介仕ります。


※ネタバレ有りのご紹介となっております。ご注意下さい。※

 
►『王家の紋章』 (全56巻)


 著:細川智栄子 秋田書店 1977/02 208p ISBN978-4253070607

 文庫版はこちら(全17巻)
 王家の紋章 (1) (秋田文庫)
 
連載開始はなんと昭和51年(!)。
今年で35年目を迎える長寿作品でございまして、各エピソードごとに連載と休載を繰り返し、現在では単行本56巻、文庫で17巻を数えております。
ま、文字通り少女漫画界屈指の大長編。おそらくこれに匹敵するのは、「ガラスの仮面」ぐらいでございましょう。
ストーリーは至ってシンプル、且つ少女漫画の王道を行くようなもの。
『エジプト留学中のキャロル・リードが、古代エジプトへとタイムスリップ。紆余曲折を経て、若きエジプトのファラオ、メンフィスと愛し合うようになる』というものでございます。

現代人であるキャロルは、古代にはない知識を持つ上「金髪碧眼」の美少女であるために「ナイルの姫君」と呼ばれ、メンフィス以外からも、ともかくモテにモテまくります。
その結果、あっちこっちの王様&王子様達から、ラブコールというにはいささか強引なお誘いが雨あられと降り注ぎ、しょっちゅう「拉致監禁」の憂き目をみるのです。

実際彼女の日常といえば、エジプトでメンフィスとイチャイチャしているか(え~い、バカップルめ!)、エジプト以外の国に拉致監禁されているか(いい加減に学習してほしい)、現代に戻って「何も覚えていないの…」と古代にいたころの記憶を無くしているかしかないんでございますよ、恐ろしいことに。

しかし彼女を拉致する相手、これがもう凄いとしか言いようのないラインナップ。
現代のトルコにあり、古代史上最初に鉄器の製造に成功した『ヒッタイト』の王子にして、冷静沈着(だったはず…なのに)なイズミル王子
現在のイラク、当時の北部メソポタミアにあった獰猛な民族『アッシリア』の王女好きのアルゴン
同じく現在のイラク、当時のメソポタミア南部にあり、砂の嵐に囲まれていた…かどうかはわかりませんが、バビルの塔で有名な『バビロニア』の狡猾な策士、ラガッシュ王。   
古代ギリシャ文明の花、ラビリンスとミノタウロスの神話で知られる『ミノア』の少年王、病弱でマザコン気味のミノス
これ以外にも、拉致監禁はしてませんが、現代のエチオピアにあたる『アビシニア』(猫の名前になってますね)、『古代インダス』、『メディア』、『リビア』、女戦士の国『アマゾン』に、都市国家『アテネ』に『ミケーネ』、「トロイの木馬」で名高い『トロイ』と、実在伝説含めて、もう古代史好きなら絶対に興味を持つような豪華絢爛な王様&王子様達ばかり。しかもそれぞれが、典型的なヒーローのライバルキャラ属性を帯びているのでございますよ。

そういうライバル達に浚われた愛するキャロルを救い出そうとすれば、当然戦争にもなります。一体シリーズ中で何回戦争が起きた事か! 歴史なんか、もう変えまくりでございますともさ。

またメンフィスは、「勇猛果敢」といえば聞こえはいいのですけれど、要するにやんちゃ坊主の俺様でございますのでねぇ…。
まったくもってはた迷惑極まりないカップルでございますよ。

しかしまぁ、いかなる逆境でも絶対に助けに来てくれるヒーローは、やっぱりいつの時代も女の子の夢でございますし(ここンとこ、世の男性はしっかり胸に刻むべし)、「3000年の時を超えた恋」っていうのにも、うん、うっとり……。

そこへ異文化、異文明がもつエキゾチズムや、謎に満ちた古代史のロマンまで加わったのがこの漫画でございます。今や母娘二代のファンがいるというのも、むべなるかな、といったところでございましょう。

また少々斜め気味な見方ではございますが、「古代文明発掘史の変遷」という視点で見ても、結構面白く読めます。

たとえば、ピラミッド
連載開始当時の昭和50年代では、「多く奴隷によって建造された」というのが一般的認識でございましたので、当然そういった描写が多く出てまいります。が、現代では「ナイル川反乱時の一種の公共事業」であり、職人や工夫たちには十分な給料も福利厚生もあったことが知られております。
ヒッタイトにしたって、当時は「鉄器を最初に製造した」と言われておりましたが、近年(2009)、ヒッタイト帝国が起こる前から、すでにアナトリアに住む民族は鉄の製造に成功していたらしい証拠が出土しています。

時代とともに新たな発見があり、それによって定説ができたり覆ったりしていく。それを検証しながら読んだり、物語にどう反映されているかを見るのも楽しみの一つでございましょう。

ワタクシぐらいの世代ですと、これを読んで「古代エジプト」や「古代オリエント文明」にはまった人は数知れず…の筈。ワタクシも今でこそ日本史好きになってますが、歴史オタクへのスタートはエジプト文明への興味だったんでございます。某吉村先生が「ツタンカーメン王墓発掘」の本を読んで考古学の世界へ入ったのと似たようなモンかもしれません。 
 
 なにしろ56巻という大長編ですし、ストーリーはもはや「白ヤギさんから♪」的な、エンドレス「拉致監禁」時々「イチャイチャ」なものでございますので、秋の夜長に、気長ぁ~に読むのにはよろしいかと存じます。
 
►『ベルサイユのばら』(5巻セット/単行本)


 著:池田理代子 集英社 2003/08 208p ISBN978-4086179119

 文庫版はこちら(全5巻)
 ベルサイユのばら 全5巻セット (集英社文庫(コミック版))
 

さて、もう一つのワタクシ的「歴史オタク的エポック漫画」と申しますのが、アニメにも映画もなり、宝塚の舞台や、最近ではパチンコにもなった(これの映像がべら棒にきれいだった)「ベルサイユのばら」

こちらも連載は昭和47年(!)と大層古い。一時は社会現象にもなったといわれ、力石徹に続いて二人目、その死に際してお葬式が開かれたキャラクター、男装の麗人オスカルが登場する作品でもございます。

舞台となる時代背景は、これまた世界史上に名高い「フランス革命」。 
 「アンシャン・レジーム(旧体制)」と呼ばれた封建体制の崩壊による新たな時代の幕開けであり、王権神授説のもと「絶対王政」が当然であった時代に、自由・平等・博愛を高らかに歌い、今日に至る「民主主義」「人民主権」の概念が芽生えた輝かしい瞬間でございます。

物語は、その革命で「人民の敵」として処刑される悲劇の王妃マリー・アントワネットが、フランスに輿入れしてくるところから始まります。
ひところは「彼女の浪費のせいでフランスは傾き、革命が起こった」という誇張された表現もございまし、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない?」と飢えに苦しむ民衆の事を聞かされて言い放ったとされるなど、彼女は何かと評価の低いおバカな人物とされてきました。

しかし近年研究が進むにつれ、彼女の風聞や評価は革命期や後の世に、意図的且つ悪意を持って流布されたものが多く、実際にはさほど愚かでも無神経でもなく、むしろ子煩悩で優しい人柄であったと分かってきております。実際、彼女の輿入れまえから、既にフランス経済は破綻寸前でございましたし、上の「パンが云々」も、別の貴族の婦人が言ったものと確認されています。

それでもやはり、彼女が浪費家で享楽的性格であったことは否定できないようでございますし、あまり頭が良い方でもなかったのも事実の模様。
が、それにしたって、当時の貴族社会を考えればさほど珍しいことでもなかったのでしょうから、彼女はごく普通の、ごく平凡な「貴族の女性」だったのでしょう。

そういった部分を、この漫画は非常にうまく、また分かりやすく描いております。
とりわけ、彼女は後にスウェーデン貴族のフェルゼンとの道ならぬ恋に苦しむことになりますが、その中で「神は何故、私という平凡な女にふさわしい、平凡な運命を与えてはくださらなかったのか」と嘆くシーンなどは、貴族なり王族なりに生まれたが故の、そしてフランス革命という巨大な歴史の歯車が音を立てて回り出す瞬間に出会ってしまったが故の悲劇を感じさせて、一個の人間としての彼女の魅力を見る思いがいたします。

そもそも作者の池田理代子さんは、ツヴァイク作の小説『マリー・アントワネット』に感銘をうけてベルサイユのばらを執筆したとのこと。

►『マリー・アントワネット』

著:シュテファン ツヴァイク 翻訳:中野京子 角川書店 2007/01
 ISBN978-4042082071

 岩波文庫版はこちら
 マリー・アントワネット〈上〉 (岩波文庫)

 河出文庫版はこちら
 マリー・アントワネット 上 (河出文庫)>
 
ワタクシも読みましたが、実に人間味をもった女性として感動的にアントワネットは描かれておりました。それはベルばらにおけるアントワネットに、見事に反映されていると申せましょう。興味のある方はこちらもご一読を。

さて対照的にオスカルはまさに「非凡なる魂」をもった人物として描かれております。
勇気、決断、思想的な高潔さなど、どれをとってもその辺の男なんぞ目じゃないほどに持ち合わせた、でも、女性。アントワネットが「平凡な女性」であるが故に苦しむなら、オスカルは「非凡な女性」であるがゆえに苦しむことになります。

何しろ女の身で軍人です。頭も非常に切れます。さまざまな出会いを通して彼女は、爛熟の頂点をすぎ、後は腐敗して落ちるのを待つのみとなった祖国フランスの窮状をよく理解し、また新しい価値観や思想のもつ瑞々しさや、それを信奉する若い改革者や思想家たちの持つエネルギーに大きな魅力も感じるようになっていきます。

しかし、自身は貴族であり、王室と国家を守護すべき近衛であり、軍人です。また腐敗したとはいえ、すべての貴族に問題があるわけでもなく、アントワネットとの間にも、長年にわたって築き上げた信頼と友愛がございます。

平凡であるがため時代の流れも読み取れず、単純に自分の属する世界と価値観を信奉するアントワネットと違い、オスカルは自身の属す世界への親しみと理想とする世界の乖離という「イデオロギー上の悩み」に翻弄される事になるのです。

もちろんご承知の通りオスカルも、フェルゼンへの思慕アンドレからの求愛などで、それなりに女として悩みます。そこがともすればあまりにも高潔で美しすぎる彼女に「可愛げ」を与えておりまして、ワタクシなんぞはとても「萌える」一面ではございますが、あくまでも彼女の本質は「女」であるよりもまず「思想家」であり「行動者」でございます。そこが彼女の苦悩の本質であり、惚れた男のために戦場に立つといった巴御前以来連綿と続く日本の「女戦士」の系譜の中でも、彼女を異色な存在としていると要因でございましょう。
 
非凡と平凡
二人の好対照な女性を軸として、その愛と苦悩、生き様死に様を描き、それをもって「フランス革命」を描いたのが「ベルサイユのばら」という作品であると、ワタクシは思っております。
 
「王家」と同様に、この作品に出会ったためにフランス文学に傾倒したり、フランスへ留学したり、それこそフランス革命そのものを研究するようになった方は数多く存在すると伺っております。斯く申すワタクシも、これがきっかけで随分とフランス革命史の本やら伝記やらを読みました。

実際の歴史、特にオスカルもアントワネットも死んだ後の革命史を知ってしまうと、結構「残念」と申しますか、「なんだったんだ、あれは?!」と言いたくなることもタンとございます(まぁ人間なんてそんなもんだろうとも思いますが)。
が、それでもやはり、歴史好きにとって「フランス革命」というものには、燦然と輝く魅力に溢れた出来事でございますし、その後を知れば知るほど、(架空ではあっても)オスカルという人物の高潔さや、アントワネットの悲劇性も際立つと思われます。
 
文責:吉野御前「一期の夢
 

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